「FIBAワールドカップ2019」の5戦を戦い終えたAKATSUKI FIVE 男子日本代表の課題点として、フリオ・ラマスヘッドコーチも、選手たちも声を揃えてフィジカルの差を挙げました。「世界と戦うためにはディフェンス面で向上しなければなりません。しかし、戦術の問題ではなく、フィジカルの改善が必要です。NBAやユーロリーグなど世界のトップレベルと比較して、Bリーグはまだまだフィジカルコンタクトが少ないです」とラマスヘッドコーチは指摘します。竹内譲次選手(アルバルク東京)も同じく、「ディフェンスにおいては構築されているが、フィジカルコンタクトの部分でいかに向上できるかが課題です」と個々のフィジカルアップが求められます。
ラマスヘッドコーチが就任した2017年からフィジカルの改善を促してきました。当時、「食事面の強化」をするよう、阿部勝彦ストレングス&コンディショニングコーチに指示します。「食事をどう摂取することがベストなのかということに関する教育がまだまだできていません。遠征先ではもちろんですが、日常から食事に対してどれぐらい興味を持っているかがまだ希薄な部分もあり、そこはこちらから指導していく必要があります。長い間一緒に過ごしているとよく分かるのですが、食事に対してまだ興味がないですし、そこに対するアプローチをすればまだまだ発展できるとも感じています」と阿部コーチが話していたのが3年前のことであり、フィジカルに対する改善を進めてきました。
世界だけではなく、アジアとの戦いでも常に課題として挙げられ、リバウンド同様に長年にわたって解決できない課題点です。「では、いったいフィジカルとは何なのか?」──はじめてワールドカップに出場し、世界との真剣勝負を目の当たりにした篠山竜青キャプテン(川崎ブレイブサンダース)はこの課題と向き合い、ひとつの答えを見出しました。
「体重を増やせばいいのか、体脂肪率を減らせばいいのか、ウェートトレーニングでもっと重い重量を上げればいいのかなど、いろんなことがあると思います。でも、僕が感じたのは身体を自分から当てに行くことに対する慣れや技術が僕らにはないと感じました。僕の体格(178cm/78kg)でもしっかりポジションを取って2m15cmや2m20cmの選手を相手にバンプしろと言われても、しっかり準備さえできていれば、吹っ飛ばすことはできないが、耐えて彼らのスピードを止めることはできる。フィジカルが弱いからウェートトレーニングをするだけではなく、もっと若いときからぶつけることに慣れたり、身体の使い方や身のこなし方をもっともっと成長させる必要があります」
その改善のヒントとして、「他のコンタクトスポーツの中で身のこなし方を覚えていく」というアイディアも出ました。
フィジカルの向上は一朝一夕にはいきません。元々身体の線が細く、その中でも屈強なアメリカで活躍していった渡邊雄太選手(メンフィスグリズリーズ)が一番そのことをよく知っています。チェコ戦後、「相手がフィジカルで戦って来ることは最初から分かっていたことです。それに対して、自分たちが急に強くなることは無理です。いかに心の準備を最初からしてコンピート(競い合う)していくか。そこはもう気持ちの問題です」とコメントを残しました。
「海外の選手の方が自分たちよりもフィジカルが強い上に、向こうから身体を当ててきていました。僕はアメリカでその経験をしていましたが、ヨーロッパ勢の身体の使い方が少し違うなを感じました。日本代表は身体の弱さがあるにも関わらず、いつも後手になって相手にぶつけられてから対抗しても遅いです。身体が強い中でも、自分たちから先手を取ることが絶対に大事になります。そこは口で言うほど簡単なことではないですが、それでも『やれ』と言われれば誰でもできることでもあるので、絶対に改善していかなければなりません」
「選手たちの声が大事です」と東野智弥技術委員長は耳を傾けます。大会期間中、渡邊選手と八村塁選手(ワシントンウィザーズ)から国内とのレフェリーの差があることを直訴されたそうです。「世界のルールはひとつです。レフェリーとも共有しながら、いつも言っている日常を世界基準にしていきます」と話すとともに、この結果を踏まえた報告書や数字的分析を付け合わせて技術委員会で討論し、テクニカルノートとして全国の指導者等々へと共有していきます。
フィジカル問題の解決へ向け、一気通貫の強化を図っているアンダーカテゴリーではすでにはじめています。佐藤晃一パフォーマンスコーチを中心に、意図的にフィジカルコンタクトをする練習メニューを実施。佐古賢一ヘッドコーチも萩原美樹子ヘッドコーチも、身体をぶつかることを厭わないようU16世代から意識づけしています。
将来有望なトップ選手だけではなく、「Bリーグから身体をぶつけていって、スタンダードを上げて行くのが代表選手の責任です。若い選手たちにそれを伝えていくためにも、現役選手として発言力あるうちにいろいろとできれば良いと感じています」と篠山選手は話しており、日本一丸となって課題克服を目指していきます。